ずっと真夜中でいいのに。「潜潜話」ディスクレビュー
2018年「正しい偽りからの起床」をリリースしてから、衝撃の楽曲を生み出し続け「今は今で誓いは笑みで」を経て、2019年のポップシーンの顔といえば、と口にしても誰にも咎められないほどのし上がってきた"ずっと真夜中でいいのに。"
満を持しての1stフルAL「潜潜話」がリリースされた。
- 脳裏上のクラッカー
- 勘冴えて悔しいわ
- 居眠り遠征隊
- ハゼ馳せる果てるまで
- 蹴っ飛ばした毛布
- Dear Mr 「F」
- こんなこと騒動
- 眩しいDNAだけ
- ヒューマノイド
- グラスとラムレーズン
- 正義
- 優しくLAST SMILE
- 秒針を噛む
(……っていうかこの曲目は1stALどころか、もはやベスト盤じゃねえか。令和時代の圧倒的ベスト盤。)
独特の世界観が映されたアニメーションMVとフジロックのステージへ初出演で話題、見えないビジュアルでポップシーンに一石を投じる彼女が奏でるのは毎作、摩訶不思議ながらもどこか身近なポップソングの数々。
太陽の光が遠い、狭く暗い自室の中から夢の中に飛び出した少女が胸に抱える迷いを、その葛藤を、これでもかというくらい全て吐き出したような、同じような日常を送る若者のため息に色をつけるような言葉の紡ぎ方。
レールの上しか走れないはずのジェットコースターに乗っているのに、曇り空の上の青空よりさらに上、その星空の奥向こうまで連れていかれてしまいそうな感覚になる展開。
気付いた時にはいくつものフロアを飛び越えていて高層フロアまで上昇していてこちらの耳抜きが間に合わない高速エレベーターのような音階。
そしてそんな楽曲の隅で、都会の喧騒をイヤホンで塞いでひとりぼっちの世界を歩いた帰り道の静けさが堂々と横たわっているのがさらに魅力的で、とにかく1曲の中の展開が多く、繋がれたものを放さない力が今作にもしっかりと根付いている。
ACAねの素性はおろか、メンバー編成も明かされていない彼女達は、姿こそ見えていても、心はなにも見えないまま誰かと接している私達の生活、ほとんどそのもののように思える。
自分が誰かわからない私と、夢の中で出会った顔の見えないACAね、ずっと真夜中でいいのに。との、ひそひそ話。
このままどこまで連れていかれようか。ここは夢か、はたまた。