HASHIGAKI

端書きです

平成最後の野外音楽堂公演でもSaucy Dogは日常だった

 

東京日比谷は雨。雨というのはなんとなくプラスかマイナスで言ったらマイナスな気がするのは私だけか。偏頭痛持ちでもないくせになんとなく頭が痛い気がして、誰も何にも悪くない、ましてやなんにも起こっちゃいないのに、誰かに八つ当たりしたくなるような気分にすらなる。電車に乗れば誰かの傘が足に当たってお気に入りのパンツが濡れてしまったり、よく行くカフェが雨の日限定でポイント2倍になることは、雨の降った日には忘れてしまったりする。そんな雨に打たれていることですら演出に思えるのは彼らの音楽にその気があるからなのだ。ライブハウスでは、炊かれたスモークに色とりどりの照明がぶつかることによって、幻想的な雰囲気が演出されたりするが、彼ら3人と私達観客とを隔てるレースのカーテンのような雨に照明がぶつかったとき、その予想できない鮮やかさはとんでもないものだった。

この季節の日比谷野外音楽堂では、開演した頃のまだ辺りも明るい時間帯にはただ、そこに灯るだけの照明が、いつの間にか空の明るさを追い越す瞬間がある。それはきっと誰にも見つけられない一瞬だ。気付けば空は暗くなっていて、全てが今日の睡眠への導入として演出された現実なのではないかと思ってしまうほどの独特な空気の中で、強く確かに存在感を示す照明になって私達とステージとを照らす。そんなことに気付くとライブ中であっても、時間って本当に進んでるんだなんて些細なことを考えてしまったりもする。とにかくライブを見るのにはこれ以上ないくらい自然体で、ありのままで音楽に触れることができる場所だなぁと改めて。そりゃそうだよな、なんてたって野外音楽堂だもん。あれっ(あれっ)、声が(声が)、遅れて(遅れて)、聴こえて(聴こえて)、くるよ(くるよ)とか言うタイプの堂じゃないからなぁ。

その昔、昔でもないか。「いつか」という曲が発表されたとき、そのあまりにもバラードとして完成された形にこのバンドはこの曲で終わるバンドだと確信していたものだった。


Saucy Dog / いつか(Official Music Video)

まるでさっき見た光景かのように細かく描写された歌詞と、激しく動く心の移り変わりが表現されたメロディーとが、ここまで密にリンクする曲はそう数えるほどない。ただ、この曲が収録されているミニアルバム「カントリロード」の曲達もそう、2枚目のミニアルバムとなった「サラダデイズ」の曲達も、その物語のどこかに私がいる。とにかく身近なことが描かれている。私もSaucy Dogなのかもしれないと思ってしまう。フィルムカメラで切り取られたような嬉しい、悲しい、切ない、楽しいの気持ちが私の日常に溶け込んでいるのだ。


Saucy Dog「真昼の月」MV


Saucy Dog「コンタクトケース」MV

平成最後の野音で鳴らされたのは、この3人だから成り立つということを強く感じさせる音だった。なにに縛られるでもなくゆらゆらと、ただ確実な音を鳴らしてバンドの礎となるベース。全く力強く叩いているわけではないように見えるのに、前へ前へとバンドの手も観客の手も引き続けるドラム。引きのストロークに強めの癖があるギターと、繊細な物語のバックグラウンドを彩り続けるメロディ。そしてこの日比谷の地から遠くどこまでも届くような伸びきった歌声。例えばこれドラムが男性ドラマーで、バチバチに突き抜けるような音を出すような形だったら、彼らの音楽は全くもって成り立たないだろう、と思う。当然これはSaucy Dogだけに言える事じゃないのだけれど、普段よりもかなり強くこのことを感じた。リリースされた曲達に加えて演奏された2つの新曲は、新しく迎えたこの時代でも彼らの快進撃がまだまだ止まらないことを物語っていたし、早く日常の中に溶けてきて欲しい。

最後の写真撮影で叫んだ、「グッバイ、平成!」のなんともいえない語呂の心地悪さが、なんとなくぱっとしない毎日のようで、好きだなぁと思った。

7月の対バンツアー行きたいな…。平日か…。